アイルランド映画が描く「真摯な痛み」
※入れ替えなし
※全席自由席
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昨年より開催してきた「アメリカ映画が描く『真摯な痛み』」に続く第3弾アイルランド編にして本シリーズの締めくくりとして、ベルファスト・パンクのゴッドファーザーことテリー・フーリーの半生を描いた伝記映画『グッド・ヴァイブレーションズ』ほどふさわしいものはないだろう。ジャパン・プレミアとなるこの映画は、北アイルランド紛争で揺れる1970年代のベルファストでパンクの洗礼を受けた男が、自らレコード店を開き、惚れ込んだバンドのためレーベルを設立し支援する姿を感動的に描いている。彼は分断された人々がつながり、踊り騒ぐことのできる公共の場を作っていくのだ。思うに、埋もれた名作や知られるべき日本未公開作品を全く慈善的な料金で上映する本イベントの試みと、拝金主義を忌み嫌い、利益や損得を気にも留めないテリーの生き様には重なるものがある。彼らは、ただ愛情のみが動機となって突き動かされているに違いない。そして、それはつまらない人間になることへのプロテストでもあるだろう。
一方、暴行で半年間の服役を終えダブリンの小さな町に戻ってきた23歳の女が、結婚式を控えた唯一無二の親友のブライズメイドを務めることになり、式の同伴者探しに奔走する──そのようなプロットを持つ『マッド・メアリー』において、アイルランドのスカーレット・ヨハンソンことショーナ・カーズレイク演じるメアリーは、酒飲みのケンカ好きで、不機嫌に太々しく悪態をついてはブチ切れる。ガラの悪いワーキング・クラスの彼女の造形は明らかに『フィッシュ・タンク』の影響下にあり、それはケン・ローチの流儀に連なるものでもある。ここには鬱屈したリアリズムが内包されているのだ。メアリーは幼い頃からの親友への想いをスピーチの手紙にしたためては幾度となく読み上げる。時を経ても変わることのないメアリーと変わってゆく親友との摩擦は残酷で痛切だが、彼女は初恋にも似た一途な感情がそれで救われると願っているのかもしれない。メアリーにとって友情はどこか愛情を基調として築かれているようだ。『ショー・ミー・ラヴ』も彷彿とさせるこの映画は、大胆不敵でありながら独特で複雑なこの感情を正確に捉えているからこそ、強く心を揺さぶるのだ。
『ムカデ人間』のトム・シックスは「俺にとって中指というのはほとんどの質問に対する答えだ」と言う。ラッパーのFebbは「俺の中指は立てるためにある」と歌う。周囲の期待を裏切る行動ばかり取るメアリーもテリーも無責任なのけ者かもしれない。しかし彼らは、信じていることを信じ切って自分の人生を進んで行く。ヘイターどもに耳は貸せない。笑いたきゃ笑えばいい。嫌いたきゃ嫌えばいい。パンク・ロックの国のこの2本の傑作は、どんな権威も認めずなびかない反骨のソウルとタフネスに貫かれている。
(映画ライター・常川拓也)
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2017年 レインボー・リール東京 上映作品
出演:リチャード・ドーマー(『ベルファスト71』『イレブン・ミニッツ』)、ジョディ・ウィッテカー(『アタック・ザ・ブロック』『ドクター・フー』)、リーアム・カニンガム(『ゲーム・オブ・スローンズ』)
- イベント詳細情報を更新しました。 Diff#310278 2018-01-23 03:46:11
1:30 PM - 5:00 PM JST
- Venue
- 渋谷ユーロライブ
- Tickets
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前売り券 SOLD OUT ¥929
- Venue Address
- 渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 2F Japan
- Organizer
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